第8回記念大会2021抄録

9:30-10:10 朝の共通講演

マインドフルネス―注意と身体―

 

越川房子(早稲田大学文学学術院教授、日本マインドフルネス学会理事長)

 

CONTENT

マインドフルネスは、行動療法の第三の潮流と称されるとともに新しいタイプの心理療法として関心を集めています。これまでの心理療法が、問題となる精神状態や行動を直接に治療の対象として扱ってきたのに対して、マインドフルネスを中核とする心理療法は、精神状態や行動それ自体ではなく、それらとの関係性を扱います。治すべき対象から、観察する対象へと関係性をシフトするのです。このシフトにおいて身体はとても重要な役割を果たします。本講演では、マインドフルネスについて「注意」をキーワードにお話しするとともに、マインドフルネスを中核とする心理療法では、なぜ「身体」を重視するのかについて考えたいと思います。

 

PROFILE

早稲田大学専任講師、助教授を経て、2012年より早稲田大学文学部・早稲田大学大学院文学研究科教授。専門は臨床心理学、特にマインドフルネス認知療法。大学院生の頃より、Transcendental Meditation(TM瞑想)、ヨガ、座禅、気功等、東洋的な瞑想や行法に親しみ、現在も継続して実践している。主な著書・訳書として、『心が軽くなるエクササイズ』(東京書籍)、『マインドフルネス認知療法』北大路書房、『うつのためのマインドフルネス実践』(星和書店)、『マインドフルネスー基礎と実践ー』(日本評論社)、Horizons in Buddhist psychology: Practice, research & theory. Chagrin Falls, OH: Taos Institute(共編著)など。

10:15-12:00 分科会ワークショップ・午前の部

(当日お好きなクラスをお選びください)

【分科会1】ソマティック・エデュケーション部門

「身体知の実践」

座長:長谷川智(山伏、一橋大学非常勤講師、本協会運営委員)

射手矢岬(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

榎本澄雄(株式会社 kibi 代表取締役、元警視庁警部補)

望月泰博(理化学研究所脳神経科学研究センター研究員、早稲田大学非常勤講師)

 

 

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まさに「こえて、つながる」。様々な分野のユニークなパネリストが集結。柔道がご専門で、長年大学体育教育・選手育成に携わっていらっしゃる射手矢先生、元刑事で、現在は特別支援教育の現場にいらっしゃる榎本先生、脳科学者で山伏の望月先生、そして山伏にして体育教師の長谷川です。

教育現場でご活躍のパネリストの皆さんに、「身体知の実践」に関するご提言を頂き、参加者の皆さまには、そのエッセンスを実際に身体で体験して頂きます。パネリストはもちろん、参加者の皆さまも交えてのディスカッションも予定しています。

ソマティック・エデュケーションの視点から、「身体知の実践」について考え、体認して頂く場としたいと思っています。(長谷川智)

 

PROFILE

 

射手矢岬:

早稲田大学スポーツ科学部教授。

筑波大学大学院博士課程修了(体育科学)。

専門はコーチングで、大学の授業では、武道のコーチングを担当。

柔道の競技力向上のための研究を行い、指導実績にも定評がある。

研究キーワード:武道、トレーニング、スポーツ運動学、柔道

 

榎本澄雄:

株式会社 kibi 代表取締役、元警視庁警部補。

早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業。

麻布署刑事課知能犯捜査係にてASD被疑者の出版社に対するインターネット名誉毀損事件を強制捜査、事件送致。人質立てこもり事件説得交渉訓練でアクティブ・リスニング・スキルを学び、退職後は特別支援教育の現場に身を置く。

著書『元刑事が見た発達障害』、共著『自傷・他害・パニックは防げますか?』は、身体・非言語アプローチと遵法教育を提言。ダンサーでもある。

 

望月泰博:

理化学研究所脳神経科学研究センター研究員、早稲田大学非常勤講師。

イギリス・ケンブリッジ大学自然科学学部卒業、同修士課程修了。京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。

専門は意思決定の神経科学・機械学習・データマイニング。

羽黒派古修験道先達の山伏。日々瞑想や滝行に励み、それらの指導も行っている。

 

長谷川智:

協会運営委員、山伏、一橋大学非常勤講師。

筑波大学大学院修了(スポーツ心理学、剣道)。

羽黒派古修験道先達二十度位。約40年に渡り、ヨーガや瞑想・滝行等、東洋的修行法を実践的に研究、指導。身心両面からのアプローチによる魂の修行、真の人間形成の道探究の途上にある。大学では、東洋の伝統的身心技法をソマティック的視点で指導している。

 

【分科会2】ソマティック心理療法部門

「サイコセラピーの現状と未来、そしてソマティック:SPC構想の可能性」

座長:久保隆司(臨床心理士、早稲田大学非常勤講師/本協会会長)

鈴木孝信(公認心理師、Brainspotting国際トレーナー)

松村憲(臨床心理士、認定プロセスワーカー。(一社)日本プロセスワークセンター教員)

浅井咲子(公認心理師、神経自我統合アプローチ〔NEIA〕開発者)

 

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本年度、医療機関とも連携して「日本ソマティック心理治療センター」(SPC)構想を企画発起し、一部の臨床も稼働し始めた。心理/精神の問題に携わる医療機関における従来型の薬物療法を限定的なものとし、かわりにより有効と考えられるソマティックな手法を最大限に活用することを大きな目標とするもである。それぞれ特徴のあるソマティック系心理療法の領域から、現在、そして将来、日本での活動を担っていく、SPC構想にも関わっている心理療法家に集まってもらい、日本の心理臨床の可能性と問題点についての議論が深まる場になることを期待する。

 

PROFILE

鈴木孝信:

ケンタッキー州立大学、マサチューセッツ州立大学大学院(修士)。アダムス州立大学大学院(博士)。カウンセラー教育で博士号を取得(8月予定)。都内クリニック(医療法人和楽会)や相談室(東京多摩ネット心理相談室)で心理臨床を行うかたわら、大学(杏林大学)で学部生を指導、またBrainspottingの普及活動を行っている。Brainspotting国際トレーナー。著作に「マインドフルネスのはじめ方」「ブレインスポッティング入門」「自分を変えれば人生が変わる」等がある。

 

松村憲:

臨床心理士、認定プロセスワーカー。(一社)日本プロセスワークセンター教員。

 

浅井咲子:

【略歴】2007年 米国ジョンF・ケネディ大学院 カウンセリング心理学修士課程修了。神経自我統合アプローチ〔NEIA〕開発者。

 【著書】「今ここ神経系エクササイズ」、「いごこち神経系アプローチ」(梨の木舎 )、「安心のタネの育て方」(大和出版)など、翻訳書も多数。

【活動】様々な療法(SE™、IFS、CRM、PVTなど)を取り入れ、発達性トラウマによる愛着や解離に取り組んでいます。

 

久保隆司:

大阪大学人間科学部(文化人類学専攻)卒。ジョンF.ケネディ大学大学院修士課程(ソマティック心理学/インテグラル理論専攻)修了。國學院大學大学院文学研究科博士課程(神道学・宗教学専攻)単位取得満期退学。臨床心理士、早稲田大学非常勤講師、ローゼンメソッド認定ボディワーカー、ビオダンサ認定ファシリテーター他。主な研究テーマ:臨床心理学/宗教学からの心身論(心身統合)及びその実践。著訳書:『ソマティック心理学』(春秋社)『入門 インテグラル理論』(日本能率協会マネジメントセンター)『ソマティック心理学への招待』(コスモスライブラリー)『PTSDとトラウマの基礎知識』(創元社)『ローゼンメソッド・ボディワーク』(BABジャパン)他。

 

【ワークショップ3】

「マインドフルネスとその先へ:教育実践からの対話」

 

井本由紀(教育人類学者・慶應義塾大学専任講師)

内田範子(国際マインドフルネス指導者協会(IMTA)認定講師・スクールソーシャルワーカー)

 

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本ワークショップでは、教育の現場でマインドフルネスがどのように導入されているのか、そして、今後日本の教育でどのようにマインドフルネスを根付かせていけるかについての対話を行う。

その手がかりとして、井本は大学教育での取り組みのほか、米国エモリー大学で開発されているSocial Emotional and Ethical Learning(略してSEE Learning)という幼児レベルから高等教育レベルまでの一貫したコンパッションとマインドフルネスに基づく教育カリキュラムの枠組みを紹介する。

内田は、Inward Bound Mindfulness Education(iBme)の10代の子ども達に向けたマインドフルネスリトリートのメンター経験、UCLAのマインドフルネスクラスの授業アシスタントとして学んできた関係性マインドフルネス(Relational Mindfulness) について紹介する。実践的なワークと振り返りや対話を織り交ぜながら、ワークショップを進めていく。

 

PROFILE

井本由紀:

オックスフォード大学大学院卒業、文化人類学博士。人類学的フィールドワークを行う中で、身体知教育の可能性に惹かれていく。2017−2018年にフルブライト研究員としてマインドフルネスに基づく教育- contemplative education-についての調査を米国各地で行う。以来、国内外でマインドフルネス・コンパッション・人類学的思考に基づく教育プログラムの開発研究と実施にかかわっている。

 

内田範子:

2007年にヨガ、マインドフルネスに出会い、 自身の実践を深める過程の中で、カリフォ

ルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) のMindful Awareness Research Center (MARC) で学ぶご縁に巡り合う。2016年にMARCの指導者プログラムTMFに初の日本人として参加し、認定ファシリテーターとなる。その後は日米の様々な場で指導、フィールドワークを展開し、 近年では「関係性マインドフルネス」の実践と研究活動に力を入れ、特に 10、20代の若者や学生に向けた活動、教育や児童福祉現場、少年院におけるマインドフルネス教育を展開している。

 

【ワークショップ4】

「ソマティック・ワークとしての坐禅〜「自己の正体」を生きる〜」

 

藤田一照(曹洞宗僧侶/本協会顧問)

 

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このワークショップでは、坐禅をソマティック・ワークとしてとらえ、その観点から調身・調息・調心の実際を体験的に理解することをめざす。坐禅は大地とのつながりかた(姿勢)、大気とのつながりかた(呼吸)、音や光といった六感とのつながりかた(心)をオープンに探究するワークである。それは力ずくで行う自力的コントロールではなく、からだ・息・こころで現に起きていることを繊細に感じ取り、身心の自己調整の働きにまかせていく〈祈り〉に似た行為である。手放し、起きてくることに従うことで生成してくる坐禅を通して、The less we do, the deeper we see.という無造作の豊かな世界を体感してみよう。

 

PROFILE

 1954年愛媛県生まれ。東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程を中途退学し、曹洞宗僧侶となる。1987年よりアメリカ合衆国マサチューセッツ州西部にある禅堂に住持として渡米、近隣の大学や仏教瞑想センターでも禅の講義や坐禅指導を行う。2005年に帰国。2010年から2018年まで、サンフランシスコにある曹洞宗国際センター所長。東西の身体技法と坐禅をクロスさせる、慣例に捉われない独自の坐禅会を主宰している。著書に『現代「只管打坐」講義』(佼成出版社)など、共著に『感じて、ゆるす仏教』(角川書店)など、訳書にラリー・ローゼンバーグ『〈目覚め〉への3つのステップ』(春秋社)などがある。 

【ワークショップ5】

「武道における『動』の瞑想」

 

丸山貴彦(一般財団法人天真会 剣武天真流本部正師範(四段))

 

 

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武道において理想とされてきた境地の一つに「無心」があります。それは日本の様々な芸道文化において探究されてきた境地でもあり、稽古人にとってはその境地を体験することが、稽古に励む上での主たる目標となってきました。しかし、多くの人にとってそれは頭で理解できていたとしても、実際に体験するとなると容易ではありません。そこで本ワークショップでは、私の師であり「天真体道」創始者である青木宏之の思想を手掛かりとしながら、改めて「無心」につながる求道進展のプロセス(「求道者の心の進展」)を解説するとともに、誰もが簡単にできる「動」の瞑想を通して、その境地の一端を体験していただきたいと思います。

 

PROFILE

1987年、東京都に生まれる。早稲田大学教育学部卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。同研究科博士後期課程単位取得退学。現在は、早稲田大学非常勤講師、倫理文化研究センター特任研究員。大学二年生の時に、「新体道」を創始したことで知られる青木宏之に師事し、当時創作されて間もなかった居合抜刀剣術「剣武天真流」を学び始める。以来、十数年にわたって稽古を続け、現在は剣武天真流本部正師範として指導にも携わっている。